事例Ⅰ シナジーのプラスとマイナスの理解
近年の中小企業白書で取り上げられるM&Aのメリットの一つとして「シナジー効果」があります。
異なる組織が統合することで発生する「相乗効果」のことです。
事例Ⅰでは、組織編制によってシナジー効果を狙う設問も出題されています。
一見するとメリットのみのように思えますが、もちろんデメリットもあります。
両方の性質を知っておくことで、多面的で正確な分析を導くのに役立ててください。
コンテンツ
シナジー効果のメリット
経営資源を共有し、組み合わせることで、1+1が2以上になる相乗効果が「シナジー効果」です。
何を共有すればよい良い効果が得られるのかいう点については、アンゾフ教授は次の4つのシナジーを挙げています。
- 販売シナジー:販売経路や顧客の共有、売り場の共同利用、販売ノウハウの共有など
- 生産シナジー:生産設備や原材料を共有することでのコスト削減、生産方式等の転用や共有化など
- 投資シナジー:研究開発などの投資、その成果を共有するなど
- 経営シナジー:マネージメントノウハウを共有するなど
組みあわせる関係が深いほど、シナジー効果は発揮されやすく、シナジー効果が働きやすいといわれています。
実例
実例としては、水着で有名な三愛水着は複合機で有名なリコーのグループでした。オフィスと水着では、シナジー効果は得られにくく、リコーは下着メーカーで有名なワコールに三愛を売却しました。
ワコールと組むことで、顧客が同じ女性のため販売シナジーを期待したものと考えられます。
さらに下着と水着の生産・研究データを共有することで生産シナジーや投資シナジーを発揮できそうです。
【参考URL】https://toyokeizai.net/articles/-/59467
シナジー効果の幻想
何かと何かをくっつければ、1+1は2以上になるというシナジー効果。
メリットばかりのようですが、“+(足す)”ことによる労力(コスト)が必要と提唱したのが、ポーター教授です。
3つのコストが示されています。
- 調整コスト(costs of coordination)
- 他事業との様々な連絡や連携、作業のすり合わせなどのコスト。
- 妥協コスト(costs of compromise)
- 部品の共有化のための製品の特徴を変更。共同配送になる為、配送タイミングや頻度に変更が生じる。
- 非柔軟性コスト(costs of inflexibility)
- 2つの組織が一つになることで、責任所在の曖昧であったり、依存関係を気にする必要がある。それによって、戦略的な柔軟性が低下する。
上記のようにシナジー効果を得るには、大きな労力とコストがかかり、失敗する事例も多くあります。
他にもマーク・L. シロワー氏が、組織を統合する時に「シナジーの罠」をデメリットとして挙げています。
組織文化の適合性が低いために、組織統合の効果が上がらないことです。
2018年度の中小企業白書でも、「M&Aの満足度が期待を下回った理由」という統計情報があります。
「相乗効果が出なかった」という直接的な理由以外に、以下の理由が挙げられています。
- 相手先の経営・組織体制が脆弱だった
- 相手先の従業員に不満があった
- 買収価格が高すぎた
- 企業文化・組織風土の融合が難しかった
- 経営・事業戦略の統合が難しかった
ポーター氏やマーク・L. シロワー氏の警鐘が表面化しているところもあります。
まとめ
統合面によるシナジー効果のプラス面とシナジー効果が得られないマイナス面の両面から測定します。
マイナス面の課題を把握した後は、各機能別戦略で事例企業に応じた対策が提案できるかを検討していくことになります。
両面の特性を知り、多面的な分析は試験においても武器になります。
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